ゆる新派の若手と共に走りツこをもやらるる覚悟と見えて勇ましとも勇ましき事なり。次の歌は
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亀の背に歌かきつけてなき乳母《うば》のはなちし池よふか沢の池
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いよいよ分りにくき歌となりたり。この歌くり返して読むほど益※[#二の字点、1−2−22]分らず、どうしても裏面に一条の小説的話説でもありさうに思はるるなり。先づこの歌の趣向につきて起るべき疑問を列挙せんか。第一、この歌の作者の地位に立つべき者は少年なるか少女なるか、かつその少年か少女かは如何なる身分の人なるか。第二、亀の背に歌書きたるは何のためか、いたづらの遊びか、何かのまじなひか、あるいは紅葉題詩といふ古事に傚《なら》ひて亀に恋の媒《なかだち》でも頼みたる訳か。第三、乳母は如何なる素性《すじょう》の女にて、どれほどの教育ありしか。第四、乳母の死にしは何年前にして、病死か、はた自殺か。第五、乳母の死と亀の事と何らの関係なきかあるか。凡《およ》そこれらの事をたしかめたる後に非ざればこの歌の評に取り掛る能はず。もしそんな複雑な事も何もあらずただこの表面だけの趣向とすればまるで狐《きつね》につ
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