るこそ贈りたる者は気安くして贈られたる者は興深けれ。今年の年玉とて鼠骨《そこつ》のもたらせしは何々ぞ。三寸の地球儀、大黒《だいこく》のはがきさし、夷子《えびす》の絵はがき、千人児童の図、八幡太郎《はちまんたろう》一代記の絵草紙《えぞうし》など。いとめづらし。此《これ》を取り彼をひろげて暫《しばら》くは見くらべ読みこころみなどするに贈りし人の趣味は自《おのずか》らこの取り合せの中にあらはれて興《きょう》尽くる事を知らず。
[#ここから5字下げ]
年玉を並《なら》べて置くや枕もと
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](一月二十八日)

 一本の扇子を以て自在に人を笑はしむるを業《わざ》とせる落語家の楽屋は存外厳格にして窮屈なる者なりとか聞きぬ。芳菲山人《ほうひさんじん》の滑稽家《こっけいか》たるは人の知る所にして、狂歌に狂文に諧謔《かいぎゃく》百出《ひゃくしゅつ》尽くる所を知らず。しかもその人極めてまじめにしていつも腹立てて居るかと思はるるほどなり。我俳句仲間において俳句に滑稽趣味を発揮して成功したる者は漱石《そうせき》なり。漱石最もまじめの性質にて学校にありて生徒を率ゐるにも厳
前へ 次へ
全196ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング