げ](一月二十四日)

 去年の夏頃ある雑誌に短歌の事を論じて鉄幹《てっかん》子規《しき》と並記し両者同一趣味なるかの如くいへり。吾|以為《おも》へらく両者の短歌全く標準を異にす、鉄幹|是《ぜ》ならば子規|非《ひ》なり、子規是ならば鉄幹非なり、鉄幹と子規とは並称すべき者にあらずと。乃《すなわ》ち書を鉄幹に贈つて互に歌壇の敵となり我は『明星《みょうじょう》』所載《しょさい》の短歌を評せん事を約す。けだし両者を混じて同一趣味の如く思へる者のために妄《もう》を弁ぜんとなり。爾後《じご》病牀|寧日《ねいじつ》少く自ら筆を取らざる事数月いまだ前約を果さざるに、この事世に誤り伝へられ鉄幹子規|不可《ふか》並称《へいしょう》の説を以て尊卑《そんぴ》軽重《けいちょう》に因《よ》ると為すに至る。しかれどもこれらの事件は他の事件と聯絡して一時歌界の問題となり、甲論乙駁《こうろんおつばく》喧擾《けんじょう》を極めたるは世人をしてやや歌界に注目せしめたる者あり。新年以後病苦益※[#二の字点、1−2−22]加はり殊に筆を取るに悩む。終《つい》に前約を果す能はざるを憾《うら》む。もし墨汁一滴の許す限において時に批
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