のけあり。
口取は焼玉子、栄螺《さざえ》(?)栗、杏《あんず》及び青き柑《かん》類の煮《に》たる者。
香の物は奈良漬の大根。
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 飯と味噌汁とはいくらにても喰ひ次第、酒はつけきりにて平と同時に出しかつ飯かつ酒とちびちびやる。飯は太鼓飯つぎに盛りて出し各※[#二の字点、1−2−22]椀にて食ふ。後の肴を待つ間は椀に一口の飯を残し置くものなりと。余は遂に料理の半《なかば》を残して得《え》喰はず。飯終りて湯桶《ゆとう》に塩湯を入れて出す。余は始めての会席料理なれば七十五日の長生すべしとて心覚《こころおぼえ》のため書きつけ置く。
 点燈《てんとう》後|茶菓《さか》雑談。左千夫、その釜に一首を題せよといふ。余問ふ、湯のたぎる音|如何《いかん》。左千夫いふ、釜大きけれど音かすかなり、波の遠音にも似たらんかと。乃《すなわ》ち
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  題釜
氷《こおり》解けて水の流るゝ音すなり     子規
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](三月二日)

 料理人帰り去りし後に聞けば会席料理のたましひは味噌汁にある由《よし》、味噌汁の善悪にてその日の料理の優劣
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