んといふ。釜の蓋《ふた》は近頃秀真の鋳《い》たる者にしてつまみの車形は左千夫の意匠なり。麓は利休《りきゅう》手簡《しゅかん》の軸を持ち来りて釜の上に掛く。その手紙の文に牧渓《もっけい》の画《え》をほめて
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我見ても久しくなりぬすみの絵のきちの掛物|幾代《いくよ》出ぬらん
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といふ狂歌を書けり。書法たしかなり。
左千夫茶を立つ。余も菓子一つ薄茶一碗。
五時頃料理出づ。麓主人役を勤む。献立左の如し。
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味噌汁は三州《さんしゅう》味噌の煮漉《にごし》、実《み》は嫁菜《よめな》、二椀代ふ。
鱠《なます》は鯉《こい》の甘酢、この酢の加減伝授なりと。余は皆喰ひて摺山葵《すりわさび》ばかり残し置きしが茶の料理は喰ひ尽して一物を余さぬものとの掟《おきて》に心づきて俄《にわか》に当惑し山葵《わさび》を味噌汁の中にかきまぜて飲む。大笑ひとなる。
平《ひら》は小鯛《こだい》の骨抜四尾。独活《うど》、花菜《はなな》、山椒《さんしょう》の芽、小鳥の叩き肉。
肴《さかな》は鰈《かれい》を焼いて煮《に》たるやうなる者|鰭《ひれ》と頭と尾とは取り
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