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[#地から2字上げ](二月十八日)


 元義の歌には妹《いも》または吾妹子《わぎもこ》の語を用ゐる極めて多し。故に吾妹子先生の諢名《あだな》を負へりとぞ。けだし元義は熱情の人なりしを以て婦女に対する愛の自《おのずか》ら詞藻《しそう》の上にあらはれしも多かるべく、彼が事実以外の事を歌に詠まざりきといふに思ひ合せても吾妹子の歌は必ず空想のみにも非《あらざ》るべし。『古今集』以後空想の文字に過ぎざりし恋の歌は元義に至りて万葉の昔に復《かえ》り再び基礎を感情の上に置くに至れり。吾妹子の歌左に

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  失題
妹《いも》と二人|暁《あかとき》露に立濡れて向《むか》つ峰上《おのえ》の月を看《み》るかも
妹が家の向《むかい》の山はま木の葉の若葉すゞしくおひいでにけり
鴨山《かもやま》の滝津《たきつ》白浪《しらなみ》さにつらふをとめと二人見れど飽かぬかも
久方《ひさかた》の天《あま》つ金山《かなやま》加佐米山《かさめやま》雪ふりつめり妹は見つるや
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[#地から2字上げ](二月十九日)

 元義|吾妹子《わぎもこ》の歌

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