ぬき》横町といへりとぞ。
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田舎路はまがりくねりておとづるる人のたづねわぶること吾が根岸のみかは、抱一《ほういつ》が句に「山茶花《さざんか》や根岸はおなじ垣つゞき」また「さゞん花や根岸たづぬる革ふばこ」また一種の風趣《ふうしゅ》ならずや、さるに今は名物なりし山茶花かん竹《ちく》の生垣もほとほとその影をとどめず今めかしき石|煉瓦《れんが》の垣さへ作り出でられ名ある樹木はこじ去られ古《いにし》への奥州路《おうしゅうじ》の地蔵などもてはやされしも取りのけられ鶯の巣は鉄道のひびきにゆりおとされ水※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《くいな》の声も汽笛にたたきつぶされ、およそ風致といふ風致は次第に失せてただ細路のくねりたるのみぞ昔のままなり云々《うんぬん》
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と博士は記《しる》せり。中にも鶯横町はくねり曲りて殊に分りにくき処なるに尋ね迷ひて空《むな》しく帰る俗客もあるべしかし。[#地から2字上げ](一月十八日)

 蕪村《ぶそん》は天明《てんめい》三年十二月二十四日に歿したれば節季《せっき》の混雑の中にこの世を去りたるなり。しかるにこの忌日《き
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