細長き葉のやや白みを帯びたる、こは春になれば黄なる花の咲く草なり、これら皆寸にも足らず。その後に植ゑたるには田平子《たびらこ》の札あり。はこべらの事か。真後《まうしろ》に芹《せり》と薺《なずな》とあり。薺は二寸ばかりも伸びてはや蕾《つぼみ》のふふみたるもゆかし。右側に植ゑて鈴菜《すずな》とあるは丈《たけ》三寸ばかり小松菜のたぐひならん。真中に鈴白《すずしろ》の札立てたるは葉五、六寸ばかりの赤蕪《あかかぶら》にて紅《くれない》の根を半ば土の上にあらはしたるさま殊《こと》にきはだちて目もさめなん心地する。『源語《げんご》』『枕草子《まくらのそうし》』などにもあるべき趣《おもむき》なりかし。
[#ここから2字下げ]
あら玉の年のはじめの七くさを籠に植ゑて来《こ》し病めるわがため
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](一月十七日)

 この頃根岸|倶楽部《クラブ》より出版せられたる根岸の地図は大槻《おおつき》博士の製作に係《かか》り、地理の細精《さいせい》に考証の確実なるのみならずわれら根岸人に取りてはいと面白く趣ある者なり。我らの住みたる処は今|鶯《うぐいす》横町といへど昔は狸《た
前へ 次へ
全196ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング