なり。しかるに不折君は人に頼まれたるほどの事|尽《ことごと》くこれに応ずるのみならず、その期日さへ誤る事少ければ書肆《しょし》などは甚だ君を重宝がりまたなきものに思ひて教科書の挿画《さしえ》、その他書籍雑誌の挿画及び表紙を依頼する者絶えず。想ひ起す今より七、八年前|桂舟《けいしゅう》の画天下に行はれ桂舟のほかに画家なしとまで思はれたる頃なりき。博文館《はくぶんかん》にても何かの挿画を桂舟に頼みしに期に及んで出来ず、館主自ら車を飛ばして桂舟を訪ひ頭を下げ辞を卑《ひく》うし再三繰返して懇々に頼み居たる事あり。それを思へば期日を延すべからざる雑誌などの挿画かきとして敏腕にしてかつ規則的なる不折君を得たる博文館の喜び察すべきなり。そのほか君の前に書画帖を置いて画を乞《こ》ふ者あれば君は直に筆を揮《ふる》ふて咄嗟《とっさ》画を成す。為山《いざん》氏の深思熟考する者と全く異なり。ただ君が容易に依頼者を満足するの弊として往々粗末なる杜撰《ずさん》なる陳腐なる拙劣《せつれつ》なる無趣味なる画を成す事あり。しかれども依頼者は多く君の雷名《らいめい》を聞いて来る者画の巧拙《こうせつ》はこれを鑑別するの識な
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