し。容易に君の揮毫《きごう》を得たるを喜んで皆ホクホクとして帰る。これらは君が人に頼まれて勉強する一例なり。[#地から2字上げ](六月二十八日)

 不折君と為山氏は同じ小山門下の人で互に相識る仲なるが、いづれも一家の見識を具《そな》へ立派なる腕を持ちたる事とて、自《おのずか》ら競争者の地位にあるが如く思はる。よし当人は競争するつもりに非《あらざ》るも傍にある余ら常に両者を比較して評する傾向あり。しかも二人の画も性質も挙動も容貌も一々正反対を示したるは殊に比較上興味を感ずる所以《ゆえん》なり。二人の優劣は固より容易に言ふべからざるも互に一長一短ありて甲越《こうえつ》対陣的の好敵手たるは疑ふべきにあらず。先づその容貌をいはんに為山氏は丈高く面《おも》長く全体にすやりとしたるに反し、不折君は丈低く面鬼の如く髯《ひげ》ぼうぼうとして全体に強き方なり。為山氏は善き衣善き駒下駄を著《つ》け金が儲《もう》かれば直《ただち》に費しはたすに反して不折君は粗衣粗食の極端にも耐へなるべく質素を旨として少しにても臨時の収入あればこれを貯蓄し置くなり。君が赤貧《せきひん》洗ふが如き中より身を起して独力を以て住
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