ほう》二尺位の油画を画くために毎日郊外二、三里の処に行きて一ヶ月も費したる事しばしばあり。一昨年の初夏なりけん君カンヴアスを負ふて渋川に行き赤城山を写す。二十余日を経て五尺ばかりの大幅《たいふく》見事に出来上りたるつもりにて得々として帰り直《ただち》に浅井氏に示す。浅井氏|曰《いわ》く場所広くして遠近さだかならず子《し》もしこの画を画とせんとならば更に一週の日子《にっし》を費して再び渋川に往けと。君は浅井氏よりの帰途余の病牀を訪《と》はれしがその時君の顔色ただならず声ふるひ耳遠く非常に激昂《げっこう》の様見えしかば余は君が旅の労《つか》れと今日の激昂とのために熱病にでもかかりはせずやと憂ひたるほどなり。何ぞ計《はか》らんその翌日君は再びカンヴアスを抱へて渋川に到り十分に画き直して一週間の後帰京せり。余は今更に君が不屈|不撓《ふとう》の勇気に驚かざるを得ざりき。この画は「淡煙《たんえん》」と題して展覧会に出でたる者なり。(宮内省《くないしょう》御用品となる)これらは皆自分のために勉強したる例なり。
 画家は多くはその性|疎懶《そらん》にして人に頼まれたる事も期日までに出来るは甚だ少きが常
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