のでその青鬼を呼んで聞いて見ると、その時迎へに往たのは自分であるが根岸の道は曲りくねつて居るのでとうとう家が分らないで引つ返して来たのだ、といふ答であつた。次に再度の迎へに往たといふ十一号の赤鬼を呼び出して聞いて見ると、なるほどその時往たことは往たが鶯《うぐいす》横町といふ立札の処まで来ると町幅が狭くて火の車が通らぬから引つ返した、といふ答である。これを聞いた閻魔様は甚だ当惑顔に見えたので、傍から地蔵様が
「それでは事のついでにもう十年ばかり寿命を延べてやりなさい、この地蔵の顔に免じて。
などとしやべり出された。余はあわてて
「滅相《めっそう》なこと仰《おっ》しやりますな。病気なしの十年延命なら誰しもいやはございません、この頃のやうに痛み通されては一日も早くお迎への来るのを待つて居るばかりでございます。この上十年も苦しめられてはやるせがございません。
閻王《えんおう》は直に余に同情をよせたらしく
「それならば今夜すぐ迎へをやろ。
といはれたのでちよつと驚いた。
「今夜は余り早うございますな。
「それでは明日の晩か。
「そんな意地のわるい事をいはずに、いつとなく突然来てもらひたいもので
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