ら、物に触れぬやうに空中にフハリと浮きたいと思ふ、空気の比重と人間の比重とを同じにして。
去年の今頃はゐざるやうにして次の間位へは往かれたものが今年の今は寐返りがむつかしくなつた。来年の今頃は動かれぬやうになつて居るであらう。
先日余の引いた凶の鬮《くじ》を穴守様《あなもりさま》で流してもらふたとわざわざ鼠骨《そこつ》の注進。
筍《たけのこ》が掘つて見たい。
日光新緑を射て驟雨《しゅうう》一過、快。緑のぬれぬれしたる中を鴉《からす》一羽葉に触れさうに飛んで行く。
附記、後で見れば文体一致せず。頭のわるい証《しるし》なり。[#地から2字上げ](五月十五日)
今日は朝から太鼓がドンドンと鳴つて居る。根岸のお祭なんである。お祭といふとすぐに子供の時を思ひ出すが、余がまだ十か十一位の事であつたらう、田舎に郷居《さとい》して居た伯父の内へお祭で招かれて行く時に余は懐剣《かいけん》をさして往た。これは余の内には頑固な風が残つて居て、男は刀をさすべきであるが今となつてはそれも憚《はばか》りであるから、せめて懐剣でもさして往くが善いといふので母の懐剣を貸されたのである。余はそれが嬉しいの
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