せば九時半頃なりき。やや心地よし。ほととぎすの歌十首に詠み足し、明日の俳句欄にのるべき俳句と共に封じて、使《つかい》して神田に持ちやらしむ。
十一時半頃|午餐《ごさん》を喰ふ。松魚《かつお》のさしみうまからず、半人前をくふ。牛肉のタタキの生肉少しくふ、これもうまからず。歯痛は常にも起らねど物を噛めば痛み出すなり。粥《かゆ》二杯。牛乳一合、紅茶同量、菓子パン五、六箇、蜜柑《みかん》五箇。
神田より使帰る。命じ置きたる鮭《さけ》のカン詰を持ち帰る。こはなるべく歯に障《さわ》らぬ者をとて択びたるなり。
『週報』応募の牡丹《ぼたん》の句の残りを検す。
寐床の側の畳に麻もて箪笥《たんす》の環《かん》の如き者を二つ三つ処々にこしらへしむ。畳堅うして畳針|透《とお》らずとて女ども苦情たらだらなり。こはこの麻の環を余の手のつかまへどころとして寐返りを扶《たす》けんとの企《くわだて》なり。この頃体の痛み強く寐返りにいつも人手を借るやうになりたれば傍に人の居らぬ時などのためにかかる窮策を発明したる訳なるが、出来て見れば存外《ぞんがい》便利さうなり。
繃帯《ほうたい》取替にかかる。昨日は来客のため取
前へ
次へ
全196ページ中137ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング