とゝぎすつくれる鳥は目に飽けどまことの声は耳に飽かぬかも
置物とつくれる鳥は此里に昔鳴きけんほとゝぎすかも
ほとゝぎす声も聞かぬは来馴れたる上野の松につかずなりけん
我病みていの寝らえぬにほとゝぎす鳴きて過ぎぬか声遠くとも
ガラス戸におし照る月の清き夜は待たずしもあらず山ほとゝぎす
ほとゝぎす鳴くべき月はいたつきのまさるともへば苦しかりけり
[#ここで字下げ終わり]
 歌は得るに従ひて書く、順序なし。[#地から2字上げ](五月十一日)

 試に我枕もとに若干の毒薬を置け。而して余が之を飲むか飲まぬかを見よ。[#地から2字上げ](五月十一日記)

 五月十日、昨夜睡眠不定、例の如し。朝五時家人を呼び起して雨戸を明けしむ。大雨。病室寒暖計六十二度、昨日は朝来《ちょうらい》引き続きて来客あり夜寝時に至りしため墨汁一滴を認《したた》むる能はず、因つて今朝つくらんと思ひしも疲れて出来ず。新聞も多くは読まず。やがて僅《わず》かに睡気を催す。けだし昨夜は背の痛強く、終宵《しゅうしょう》体温の下りきらざりしやうなりしが今朝|醒《さ》めきりしにやあらん。熱さむれば痛も減ずるなり。
 睡《ねむ》る。目さま
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