ありと聞けばともしも
世の中のきたなき道はみちのくの岩手の関を越えずありきや
春雨はいたくなふりそみちのくの孝子の車引きがてぬかも
みちのくの岩手の孝子|文《ふみ》に書き歌にもよみてよろづ代《よ》までに
世の中は悔いてかへらずたらちねのいのちの内に花も見るべく
うちひさす都《みやこ》の花をたらちねと二人し見ればたぬしきろかも
われひとり見てもたぬしき都べの桜の花を親と二人見つ
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](五月五日)

 新華族新博士の出来るごとに人は、またか、といひて眉を顰《ひそ》むるが多し。こは他人の出世を妬《ねた》む心より生ずる言葉にていとあさまし。余はむしろ新華族新博士の益※[#二の字点、1−2−22]多く愈※[#二の字点、1−2−22]ふえん事を望むなり。されどこれも裏側より見たる嫉妬心といはばいふべし。
 博士もお盃《さかずき》の巡り来るが如く来るものとすれば俗世間にて自分より頭の上にある先輩の数を数へて順番の来るを待つべきなり。雪嶺《せつれい》先生なども今頃お盃を廻されては「辞するほどの価値もない」とでも言はねばなるまじ。しかし新博士には博士号を余り有難
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