たゝび逢はんわれならなくに
いちはつの花咲きいでゝ我目には今年ばかりの春行かんとす
病む我をなぐさめがほに開きたる牡丹の花を見れば悲しも
世の中は常なきものと我|愛《め》づる山吹の花散りにけるかも
別れ行く春のかたみと藤波の花の長ふさ絵にかけるかも
夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我いのちかも
くれなゐの薔薇ふゝみぬ我病いやまさるべき時のしるしに
薩摩下駄《さつまげた》足にとりはき杖つきて萩の芽摘みし昔おもほゆ
若松の芽だちの緑長き日を夕かたまけて熱いでにけり
いたつきの癒ゆる日知らにさ庭べに秋草花の種を蒔《ま》かしむ
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 心弱くとこそ人の見るらめ。[#地から2字上げ](五月四日)

 岩手の孝子《こうし》何がし母を車に載せ自ら引きて二百里の道を東京まで上り東京見物を母にさせけるとなん。事新聞に出でて今の美談となす。
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たらちねの母の車をとりひかひ千里も行かん岩手の子あはれ
草枕《くさまくら》旅行くきはみさへの神のいそひ守らさん孝子の車
みちのくの岩手の孝子名もなけど名のある人に豈《あに》劣らめや
下り行く末の世にしてみちのくに孝の子
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