と思ふ。
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反椀《そりわん》は家にふりたり納豆汁
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「古くなつて木が乾くに従ひ反《そ》つて来る」とあれども反椀は初より形の反つた椀にて、古くなつて反つた訳には非《あらざ》るべし。
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あたゝめよ瓶子《へいし》ながらの酒の君
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 この句に季ありや。もし酒をあたたむるが季ならばそれは秋季なるべし。あるいは連句中の雑《ぞう》の句などに非ずや。
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河豚《ふぐ》しらず四十九年のひが事よ
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 四十九年の非を知るとは『論語』にあるべし。「ひが事」の「ひ」の字は「非」にかかりたるなり。
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佐殿《すけどの》に文覚《もんがく》鰒《ふぐ》をすゝめけり
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「比喩《ひゆ》に堕ちてゐるから善くない」とあれどもこの句の表面には比喩なし。裏面には比喩の面影あるべし。
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無縁寺の夜は明けにけり寒《かん》ねぶつ
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 寒念仏といふのは無縁の聖霊《しょうりょう》を弔ふために寒中に出歩行《である》く者な
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