て、山吹は黄|漸《ようや》く少く、牡丹は薄紅《うすくれない》の一輪先づ開きたり。やがて絵の具箱を出させて、五色、紫、緑、黄、薄紅、さていづれの色をかくべき。[#地から2字上げ](四月二十九日)
病室のガラス障子より見ゆる処に裏口の木戸あり。木戸の傍《かたわら》、竹垣の内に一むらの山吹あり。この山吹もとは隣なる女《め》の童《わらわ》の四、五年前に一寸ばかりの苗を持ち来て戯れに植ゑ置きしものなるが今ははや縄もてつがぬるほどになりぬ。今年も咲き咲きて既になかば散りたるけしきをながめてうたた歌心起りければ原稿紙を手に持ちて
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裏口の木戸のかたへの竹垣にたばねられたる山吹の花
小縄もてたばねあげられ諸枝《もろえだ》の垂れがてにする山吹の花
水汲みに往来《ゆきき》の袖《そで》の打ち触れて散りはじめたる山吹の花
まをとめの猶《なお》わらはにて植ゑしよりいく年《とせ》経たる山吹の花
歌の会開かんと思ふ日も過ぎて散りがたになる山吹の花
我|庵《いお》をめぐらす垣根|隈《くま》もおちず咲かせ見まくの山吹の花
あき人も文くばり人も往きちがふ裏戸のわきの山吹の花
春の日の雨しき降れば
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