ふかく月を見ざればせめてみづにうつるかげなりとも見んとすれどなみあればみづのうへの月をも見る事なしとなり
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とあり。その次に
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○病人はなはだあやふし ○悦事《よろこびごと》なし ○失物《うせもの》出がたし
○待人きたらず…………… ○生死あやふし……………
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などあり。適中したる事多し。前年神戸病院を退きて故郷に保養しつつありし際衰弱甚だしかりしがある日勇を鼓《こ》して郊外半里ばかりの石手寺《いしでじ》を見まひぬ。その時本堂の縁に腰かけて休みつつその傍に落ちありし紙片を拾ひ拡げ見たるにこの寺の御籤の札なり。凶の籤にして中に大病あり命にはさはりなし、などいへる文句あり、善く当時の事情に適中し居たり。かかる事もあるによりて卜筮《ぼくぜい》などに対する迷信も起るならん。[#地から2字上げ](四月二十一日)

 自分の俳句が月並調に落ちては居ぬかと自分で疑はるるが何としてよきものかと問ふ人あり。答へていふ、月並調に落ちんとするならば月並調に落つるがよし、月並調を恐るるといふは善く月並調を知らぬ故なり、月並調は監獄の如く恐る
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