、本所《ほんじょ》の茶博士より一封の郵書来りぬ。披《ひら》き見れば他の詞《ことば》はなくて
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擬墨汁一滴《ぼくじゅういってきにぎす》              左
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総じて物にはたらきなきは面白からず。されどもはたらき目だちて表に露《あらわ》れたるはかへつていやしき処あり。内にはたらきありて表ははたらきなきやうなるが殊にめでたきなり。
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道入《どうにゅう》の楽《らく》の茶碗や落椿
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春雨のつれづれなるままの戯《たわぶれ》にこそ、と書きたり。時に取りていとをかし。
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[#地から2字上げ](四月十八日)

 をかしければ笑ふ。悲しければ泣く。しかし痛の烈しい時には仕様がないから、うめくか、叫ぶか、泣くか、または黙つてこらへて居るかする。その中で黙つてこらへて居るのが一番苦しい。盛んにうめき、盛んに叫び、盛んに泣くと少しく痛が減ずる。[#地から2字上げ](四月十九日)

 諸方より手紙|被下《くだされ》候諸氏へ一度に御返事申上候。小生の病気につきいろいろ御注意被下、あるいは深山にあ
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