動しやすき、下腹のへこみやすき青年文士よ、汝《なんじ》の生るる事百年ばかり早過ぎたり、今の世は文士保護論の僅《わず》かに芽出したる時にして文士保護の実の行はるる時にあらず、我汝が原稿を抱いて飯にもありつけぬ窮境を憐《あわれ》んで汝を一刀両断せんとす、汝出直して来れ。
第二枚は、文士の首は前に落ちて居る処で、斬《き》られたる首の跡から白い煙が立つて居る。その煙がまゐらせ候《そろ》といふ字になつて居て、その煙の末に裸体美人がほのかに現はれて居る。神様の剣の尖《さき》からは紫色の血がしたたつてそのしたたりが恋愛文学といふ字になつて居る。
第三枚は、芝居の舞台で、舞台の正面には「嗚呼《ああ》明治文士之墓」といふ石碑が立つて居る。墓のほとりには菫《すみれ》が咲いて居て、墓の前の花筒には白百合の枯れたのが挿《さ》してある。この墓の後から西洋風の幽霊が出て来るので、この幽霊になつた俳優が川上音二郎五代の後胤《こういん》といふのである。さてこの幽霊がここで大《おおい》に文士保護の演説をすると、見物は大喝采《だいかっさい》で、金貨や銀貨を無暗《むやみ》に舞台に向つて投げる、投げた金貨銀貨は皆飛んで往
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