に習はざるために此趣味を解せざるにはあらざるか。今日の歌界に於ける諸氏は愚蒙の群中に一頭地を拔きたるために先鞭者の名をこそ負へれ他日歌界一般に進歩したる時、空しく人後に落ちて陳腐好きの俗輩と伍せられざらん事を祈るなり。[#地から2字上げ]〔日本附録週報 明治33[#「33」は縦中横]・5・14[#「14」は縦中横] 一〕

      (二)

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   天皇登香具山望國之時御製歌
やまとにはむら山あれど、とりよろふ天の香具山、のぼりたち國見をすれば、國原は煙立ち立つ、海原はかまめ立ち立つ、うまし國ぞあきつ島やまとの國は
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 舒明天皇御製なり。とりよろふは足りとゝのへる意、かまめは鴎なり。海原は埴安《はにやす》の池をいへりとぞ。
 簡明にして蒼老、大なるたくみなくて却て趣盡きぬ妙あり。「のぼりたち」より「國見をすれば」につゞく處平凡なる如くなれども實際作歌の場合にはこれだけの連續が出來ずして冗長に失することあるものなり。「立ち立つ」と二つ重ねて物の多き有樣を現すなど極めて巧なる語なるを、後世の人時に此語を襲用して其儘に「立ち立つ」と使ふも、他
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