《か》いて居る。
 台所では皿徳利などの物に触れる音が盛んにして居る。
 見る物がなくなって、空を見ると、黒雲と白雲と一面に丑寅《うしとら》の方へずんずんと動いて行く。次第に黒雲が少くなって白雲がふえて往く。少しは青い空の見えて来るのも嬉しかった。
 例の三人の子供は復《また》我垣の外まで帰って来た。今度はごみため箱の中へ猫を入れて苦しめて喜んで居る様子だ。やがて向いの家の妻君、即ち高ちャんという子のおッかさんが出て来て「高ちャん、猫をいじめるものじャありません、いじめると夜化けて出ますよ、早く逃がしておやりなさい」と叱った。すると高ちャんという子は少し泣き声になって「猫をつかまえて来たのはあたいじャない年ちャんだよ」といいわけして居る。年ちャんという子も間が悪うて黙って居るか暫く静かになった。
 かッと畳の上に日がさした。飯が来た。

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 子規子より「飯待つ間」の原稿送り来されたる同封中に猫の写生画二つあり。一は顔にして、一は尻高く頭低く丸くなりて臥しゐるところなり。その画の周囲に次の如き文章あり。もとより一時の戯れ書きに過ぎざれど、「飯待つ間」と相照応して面白
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