えて往ったが、彼らはまだその猫を持て遊んで居ると見えて垣の外に騒ぐ声が聞える。竹か何かで猫を打つのであるか猫はニャーニャーと細い悲しい声で鳴く。すると高ちャんという子の声で「年ちャんそんなに打つと化けるよ化けるよ」とやや気遣《きづか》わしげにいう。今年五つになる年ちャんという子は三人の中の一番年下であるが「なに化けるものか」と平気にいってまた強く打てば猫はニャーニャーといよいよ窮した声である。三人で暫《しばら》く何か言って居たが、やがて年ちャんという子の声で「高ちャん高ちャんそんなに打つと化けるよ」と心配そうに言った。今度は六つになる高ちャんという子が打って居るのと見える。ややあって皆々笑った。年ちャんという子が猫を抱きあげた様子で「猫は、猫は、猫は宜《よろ》しゅうござい」と大きな声で呼びながらあちらへ往ってしまった。
 飯はまだ出来ぬ。
 小《ちいさ》い黄な蝶はひらひらと飛んで来て干し衣の裾《すそ》を廻ったが直ぐまた飛んで往て遠くにあるおしろいの花をちょっと吸うて終に萩のうしろに隠れた。
 籠《かご》の鶉《うずら》もまだ昼飯を貰《もら》わないのでひもじいと見えて頻りにがさがさと籠を掻
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