く覚えたれば爰《ここ》に載録す。写生画もまた子規子の画として面白けれど載すること能はざるは遺憾なり。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ](虚子記)

[#「猫の写生画」のキャプション付きの絵(fig50393_01.png、横553×縦372)入る]
 明治卅二年十月九日「飯待つ間」といふ原稿書きをへし処に、彼子猫はやうやくいたづら子の手を逃れたりとおぼしくゆうゆうと我家に上り我横に寐居る蒲団の上、丁度我腹のあたりに蹲《うずくま》りてよごれ乱れたる毛を嘗《な》め始めたり。妹は如何思ひけん糸に小き球をつけてこれを猫の目の前にあちこちと振りつづけしかば、猫は舌を収めて首傾け一心に球を見つめ居る、そこを写生したるなり。しかるに僅に首だけ写しをはりし時、糸切れて球動かざりしかば疲れに疲れたる猫はそのまま身を蒲団の谷あひに横たへ顔を尻の処へ押しつけて寐入りぬ。その様尻高く頭低く寐苦しかるべき様なり。我はそを見下しながらに右の方の図を作る。写して正にをはる時妹再び来りて猫をつまみ出しぬ。なほ追へども去らず、再び何やらにて大地に突き落しぬ。猫は庭の松の木に上りて枝の上に蹲りたるままいと平
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