た普通のことなり。これ貧に安んずる者に非ずして貧に悶《もだ》ゆる者。曙覧はたして貧に悶ゆる者か否か。再びこれをその歌詠に徴せん。[#地付き]〔『日本』明治三十二年三月二十三日〕
余は思う、曙覧の貧は一般文人の貧よりも更に貧にして、貧曙覧が安心の度は一般貧文人の安心よりも更に堅固なりと。けだし彼に不平なきに非《あらざ》るもその不平は国体の上における大不平にして衣食住に関する小不平に非ず。自己を保護せずしてかえって自己を棄てたる俗世俗人に対してすら、彼は時に一、二の罵詈《ばり》を加うることなきにしもあらねど、多くはこれを一笑に付し去りて必ずしも争わざるがごとし。「独楽※[#「口+金」、第3水準1−15−5]」の中に
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たのしみは木芽《このめ》※[#「さんずい+龠」、第4水準2−79−46]《にや》して大きなる饅頭《まんじゅう》を一つほほばりしとき
たのしみはつねに好める焼豆腐うまく烹《に》たてて食《くわ》せけるとき
たのしみは小豆《あずき》の飯の冷《ひえ》たるを茶|漬《づけ》てふ物になしてくふ時
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多言するを須《もち》いず、これらの歌が曙
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