じく下二句軽くして結び得ず。
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羊腸《つづらおり》ありともしらで人のせに負《おわ》れて秋の山ふみをしつ
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 これも頭重脚軽なり。この歌にては「背に負はれ」というが主眼なれば、この主眼を結句に置かざれば据わらざるべし。
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ふくろふの糊すりおけと呼ぶ声に衣《きぬ》ときはなち妹は夜ふかす
こぼれ糸|※[#「糸+麗」、第4水準2−84−64]《さで》につくりて魚とると二郎太郎三郎川に日くらす
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 この歌はいずれも趣向の複雑したる歌なれば結句に千鈞《せんきん》の力なかるべからず。しかるに二首ともに結句の力、上三句に比して弱きを覚ゆ。ことに第四句に「二郎太郎三郎」などいえるつまりたる語を用いなば、第五句はますます重く強きを要す。
 曙覧の歌調を概論すれば第二句重く第四句軽く、結句は力弱くして全首を結ぶに足らざるもの最も多きに居る。『万葉』にこの頭重脚軽の病なきはもちろん、『古今』にもまたなし。徳川氏の末ようやく複雑なる趣向を取るに至りて多くは皆この病を免れず。曙覧また同じ。曙覧はほとんど歌調を解せず。歌調を
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