さりて物しれる人は高き賤《いやし》きを選ばず常に逢《あい》見て事尋ねとひ、あるは物語を聞《きか》まほしくおもふを、けふは此《この》頃にはめづらしく日影あたたかに久堅《ひさかた》の空晴渡りてのどかなれば、山川野辺のけしきこよなかるべしと巳《み》の鼓《つづみ》うつ頃より野遊《のあそび》に出たりき、三橋といふ所にいたる、中根師質《なかねもろただ》あれこそ曙覧の家なれといへるを聞て、俄《にわか》にとはむとおもひなりぬ、ちひさき板屋の浅ましげにてかこひもしめたらぬに[#「ちひさき板屋の浅ましげにてかこひもしめたらぬに」に傍点]、そこかしこはらひもせぬにや塵ひぢ山をなせり[#「そこかしこはらひもせぬにや塵ひぢ山をなせり」に傍点]、柴の門もなくおぼつかなくも家にいりぬ[#「柴の門もなくおぼつかなくも家にいりぬ」に傍点]、師質心せきたるさまして参議君の御成《おなり》ぞと大声にいへるに驚きて、うちよりししじもの膝《ひざ》折ふせながらはひいでぬ、●
すこし広き所に入りてみれば壁[#「壁」に傍点]落《おち》かかり障子はやぶれ畳はきれ雨もるばかりなれども[#「かかり障子はやぶれ畳はきれ雨もるばかりなれども」に
前へ 次へ
全36ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング