の不平は他に漏らすの方《かた》なく、凝りて三十一字となりて現れしものなるべく、その歌が塵気《じんき》を脱して世に媚《こ》びざるはこれがためなり。彼自ら詠じて曰《いわ》く
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吾《わが》歌をよろこび涙こぼすらむ鬼のなく声する夜の窓
灯火《ともしび》のもとに夜な夜な来たれ鬼|我《わが》ひめ歌の限りきかせむ
人臭き人に聞《きか》する歌ならず鬼の夜ふけて来《こ》ばつげもせむ
凡人《ただひと》の耳にはいらじ天地《あめつち》のこころを妙に洩《も》らすわがうた
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何らの不平ぞ。何らの気焔《きえん》ぞ。彼はこの歌に題して「戯れに」といいしといえども「戯れ」の戯れに非《あらざ》るはこれを読む者誰かこれを知らざらん。しかるをなお強いて「戯れに」と題せざるべからざるもの、その裏面には実に万斛《ばんこく》の涕涙《ているい》を湛《たた》うるを見るなり。吁《ああ》この不遇の人、不遇の歌。
彼と春岳との関係と彼が生活の大体とは『春岳|自記《じき》』の文に詳《つまびらか》なり。その文に曰く
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橘曙覧の家にいたる詞
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おのれにま
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