朝※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、143−3]や傾城町のうら通り
かた/\は花そば白し曼珠沙花

【大磯千疊敷〔二句〕】
一谷は風撫であぐる薄哉
一山は風にかたよる薄哉

【同 雨にあふ〔二句〕】
雨さそふ千疊敷の薄かな
一谷は雲すみつかぬ薄かな
稻妻に朝※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、143−11]つぼむ夕かな
箱根山薄八里と申さはや
新棉の荷をこぼれ出る寒さ哉

【箱根〔二句〕】
槍立てゝ通る人なし花薄
石の上にはへぬ許りそ花薄
草鞋の緒きれてよりこむ薄哉
風一筋川一筋の薄かな
馬の尾をたばねてくゝる薄哉
末枯や覺束なくも女郎花
菅笠のそろふて動く薄哉
皮むけば青煙たつ蜜柑哉
紅葉する木立もなしに山深し

【美人に紅葉の一枝をねだられて】
薄紅葉紅にそめよと與へけり

【箱根茶店】
犬蓼の花くふ馬や茶の煙
唐秬のからでたく湯や山の宿
石原にやせて倒るゝ野菊かな
草刈の刈りそろへけり花薄
箱根路は一月早し初※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、145−1]

【愚庵】
紅葉ちる和尚の留守のいろり哉
常盤木にまじりて遲き紅葉哉
ぬす人のはいつた朝や桐一葉
ぬす人の住まうたといふ銀杏哉
狩りくらす靱の底の紅葉哉
味噌色に摺鉢山の紅葉哉
秋のうら秋のおもてや葛尾花
影むすぶ雌松雄松の松露哉
誰に賣らん金なき人に菊賣らん
御陵としらで咲けり萩の花
牛小屋の留守に鹿鳴く紅葉哉
白河の關を染めけり夕紅葉
竹藪に一つる重し烏瓜
我聲の風になりけり茸狩
松茸や京は牛煮る相手にも
相生の松茸笠をまじへけり
※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、146−4]頭や馬士が烟管の雁首で
醉ざめや十日の菊に烟草のむ
大小の朱鞘はいやし紅葉狩
二三枚取て重ねる紅葉哉
猿啼く夜團栗落つるしきり也
古寺や木魚うつ/\萩のちる
月の出て風に成たる芒かな
毒茸の下や誰が骨星が岡

【岩屋山】
縱横に蔦這ひたらぬ岩屋哉

【三津】
堀川の滿干のあとや蓼の花
秋の山瀧を殘して紅葉哉

【八股】
八方に風の道ある榎實哉
升のみの酒の雫や菊の花
稻の穗のうねりこんだり祝谷
團栗の水に落つるや終夜
をさな子の鬼灯盛るや竹の籠
月白く※[#「※」は「木へん+「弟」から一、二、三画目を取ったもの」、第3水準1−85−57、147−8]赤き夜や猿の梦
傾城は屏風の萩に旅寐哉
七草に入らぬあはれや男郎花
大名の庭に痩せたり女郎花
世や捨てんわれも其名を菊の水
うき人にすねて見せけり女郎花
一枝の紅葉そへたり妹が文
明耿※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、147−15]朝日に並ぶ菊花※[#「※」は「糸へん+章」、147−15]
朝※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、148−1]は命の中のいのちかな
井のそこに沈み入りけり桐一葉
椎の實や袂の底にいつからぞ
横雲のすき間こほるゝもみち哉
朝霧の杉にかたよるもみち哉
谷深く夕日一すぢのもみち哉
一村は夕日をあびる紅葉哉
をり/\に鹿のかほ出す紅葉哉
どの山の紅葉か殘る馬の鞍
牛の子を追ひ/\はいるもみち哉
鷄の鳴く奧もありむらもみち
馬の背の大根白し夕もみち
盆程の庭の蒔繪や菊もみち
下闇に紅葉一木のゆふ日哉
いろ/\の紅葉の中の銀杏哉
藪蔭に夕日の足らぬもみち哉
絶壁に夕日うらてるもみち哉
岩鼻に見あげ見おろす※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、149−3]哉
道二つ馬士と木こりのもみち哉
小原女の衣ふるへばもみぢ哉
背に烏帽子かけた仕丁や薄※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、149−6]
傘にをり/\見すく※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、149−7]哉
千山の紅葉一すぢの流れ哉
眞黒に釣鐘暮れるもみち哉
松明の山上り行くもみち哉
駕下りて紅葉へ二里と申す也
兩岸の紅葉に下す筏かな
紅葉やく烟は黒し土鑵子
火ともせはずんぶり暮るゝ紅葉哉
猿引の家はもみちとなりにけり
關守の徳利かくすもみち哉
夕もみち女もまじるうたひ哉
神殿の御格子おろす※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、150−3]哉
廊下から手燭をうつす※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、150−4]哉
煙たつ軒にふすぼるもみち哉
辨當を鹿にやつたるもみち哉
山寺に塩こぼし行く※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、150−7]かな
をさな子の手に重ねたるもみち哉
尺八の手に持ちそふるもみち哉
町ありく樵夫の髮にもみち哉
おろ/\とのんで風呼ぶ薄哉
井戸堀や砂かぶせたる蓼の花
朝顏の日うら勝にてあはれなり
吹きかへす風の薄のそゝけ哉
竹垣や菊と野菊の裏表
早し遲し二木の桐の一葉哉
わりなしや小松をのぼる蔦紅葉
蔦の葉をつたふて松の雫哉
松二木蔦一もとのもみぢ哉

【再遊松林舘】
色かへぬ松や主は知らぬ人
[#改頁]

明治廿五壬辰年
はじめの冬 天文

ほんのりと茶の花くもる霜夜哉
北風や芋屋の烟なびきあへず
呉竹の奧に音あるあられ哉
青竹をつたふ霰のすべり哉
一ツ葉の手柄見せけり雪の朝
雪の夜や簔の人行く遠明り
初雪や小鳥のつゝく石燈籠
初雪をふるへばみのゝ雫かな
一里きて酒屋でふるふみのゝゆき
初雪や奇麗に笹の五六枚
雪の中うたひに似たる翁哉
靜かさや雪にくれ行く淡路嶋
雪の日の隅田は青し都鳥
からかさを千鳥はしるや小夜時雨
さら/\と竹に音あり夜の雪
初雪や輕くふりまく茶の木原
雪折の竹に乞食のねざめ哉
白雪におされて月のぼやけ哉
うらなひの鬚にうちこむ霰哉
夜廻りの木に打ちこみし霰哉
三日月を時雨てゐるや沖の隅
吹付てはては凩の雨もなし

【乕圖】
万山の木のはの音や寒の月
凩や虚空をはしる氣車の音
     かけイ
[#「かけイ」は「はし」の左側に注記するような形で]
牛若の下駄の跡あり橋の霜

【達磨三味をひく 画賛】
凩に三味も枯木の一ツ哉
朝霜を洗ひ落せし冬菜哉
凩や追手も見えすはなれ馬
新聞で見るや故郷の初しくれ
時雨るや筧をつたふ山の雲

冬雜(天文除)

【高田の馬場にすむ古白のもとを訪ふて】
日あたりや馬場のあとなる水仙花

【一月廿二日夜半ふと眼を開けば※[#「※」は「あなかんむり+「聰」のつくり」、第3水準1−89−54、154−10]外月あかし扨は雨戸をや引き忘れけんと思ひて左の句を吟ず翌曉さめて考ふれば前夜の發句は半醒半梦の間に髣髴たり】
冬籠夜着の袖より※[#「※」は「あなかんむり+「聰」のつくり」、第3水準1−89−54、154−14]の月
炭二俵壁にもたせて冬こもり

【破蕉先生に笑はれて】
冬こもり小ぜにをかりて笑はるゝ
鰒汁や髑髏をかざる醫者の家
骨折て四五輪さきぬ冬のうめ
茶坐敷の五尺の庭を落葉哉
籔ごしやはだか參りの鈴冴る

【不忍池】
水鳥の中にうきけり天女堂
冬枯や蛸ぶら下る煮賣茶屋
ものくはでかうもやせたか鉢敲
達磨忌や戸棚探れは生海鼠哉
出つ入つ數定まらぬ小かもかな
犬張子くづれて出たり煤拂
鉢叩頭巾をとれははげたりな
面白うたゝかば泣かん鉢叩
宵やみに紛れて出たり鉢敲
森こえて枯野に來るや旅烏
煤拂のほこりの中やふじの山

【煙草道具 画賛】
吹きならふ煙の龍や冬こもり
手の皺を引きのばし見る火鉢哉
夜著かたくからだにそはぬ寒さ哉

廿五年 終りの冬 時節

いそがしく時計の動く師走哉

【高尾山〔二句〕】
凩をぬけ出て山の小春かな
不二を背に筑波見下す小春哉
小春日や又この背戸も爺と婆
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
爲朝のお宿と書し寒さ哉
病人と靜かに語る師走哉

【松山會】
行年を故郷人と酌みかはす
初冬に何の句もなき一日かな
行年を鐵道馬車に追付ぬ
返事せぬつんぼのぢゞや神無月
屋の棟に鳩のならびし小春哉
御格子に切髮かくる寒さ哉
馬糞のいきり立たる寒さ哉
鳥居より内の馬糞や神無月
馬痩せて鹿に似る頃の寒さ哉
君が代は大つごもりの月夜哉
※[#「※」は「「韓」のへん+「礼」のつくり」、157−14]鮭も熊も釣らるゝ師走哉
魚棚に熊笹青き師走哉
年の尾や又くりかへすさかさ川
ありたけの日受を村の冬至哉
乞食寄る極樂道や小六月
仰向けぬ入道畠の寒さ哉
玉川に短き冬の日脚哉
年のくれ乞食の梦の長閑也
きぬ/\にものいひ殘す寒哉
年のくれ命ばかりの名殘哉
ぬす人のぬす人とるや年の暮
白足袋のよごれ盡せし師走哉
いそがしい中に子を産む師走哉
羽子板のうらに春來る師走哉
年の暮月の暮日のくれにけり

廿五年 終りの冬 人事 器用

鉢叩雪のふる夜をうかれけり

【茶店にて】
穗薄になでへらされし火桶哉
月花にはげた頭や古頭巾
炭竈に雀のならぶぬくみかな
古暦雜用帳にまぎれけり
きぬ/″\に寒聲きけは哀れ也
金杉や二間ならんで冬こもり
猫老て鼠もとらず置火燵
君味噌くれ我豆やらん冬こもり
同じ名のあるじ手代や夷子講
此度は娵にぬはせじ角頭巾

【讀書燈】
古はくらしらんぷの煤拂
しぐれずに空行く風や神送
※[#「※」は「「韓」のへん+「礼」のつくり」、160−1]鮭の腹ひや/\と風の立つ
節分や親子の年の近うなる
※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、160−3]もうたひ參らす神迎
達磨忌や混沌として時雨不二
湯の山や炭賣歸る宵月夜
節季候の札の辻にて分れけり
どの馬で神は歸らせたまふらん
寒聲や誰れ石投げる石手川
遠ざかり行く松風や神送り

【松山】
掛乞の大街道となりにけり
塩燒くや煤はくといふ日もなうて
老が齒や海雲すゝりて冬籠
冬籠日記に梦を書きつける

【廓】
にくらしき客に豆うつねらひ哉
此頃は聲もかれけり鉢たゝき
本陣にめして聞かばや鉢叩
つみあげて庄屋ひれふす年貢哉
道※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、161−5]にこぼるゝ年のみつぎ哉
ふるまはん深草殿に玉子酒
臘八のあとにかしましくりすます
嵐雪の其角におくる紙衣哉
柊をさす頼朝の心かな
顏見せやぬす人になる顏はたれ
常闇を破る神樂の大鼓哉
榾の火に石版摺のすゝけかな
すとうぶや上からつゝく煤拂
初暦めでたくこゝに古暦
手をちゞめ足をちゝめて冬籠
貧乏は掛乞も來ぬ火燵哉
世の中を紙衣一つの輕さかな
鼻息に飛んでは輕し寶舟
手と足に蒲團引きあふ宿屋哉

廿五年 終りの冬 天文 地理

【鐵眼師によす】
凩や自在に釜のきしる音

【寄贈馬骨】
凩や京にそがひの家かまへ

【訪愚庵】
淨林の釜にむかしを時雨けり
冬の日の二見に近く通りけり
凩や夜着きて町を通る人
とりまいて人の火をたく枯野哉
馬糞も共にやかるゝ枯野哉
新宿に荷馬ならぶや夕時雨 樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下
[#「樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下」は「新宿に荷馬ならぶや夕時雨」の下にポイントを下げて2行で]

【玉川】
鮎死て瀬の細りけり冬の川
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉 重出
吹雪くる夜を禪寺に納豆打ツ
稻かりて力無き冬の初日哉
雪の脚寶永山へかゝりけり
朝霜や藁家ばかりの村一つ
松杉や枯野の中の不動堂
色里や時雨きかぬも三年ごし
夜廻りの鐵棒はしる霰哉
十一騎面もふらぬ吹雪かな
誰かある初雪の深さ見て參れ

【乞食】
初雪の重さ加減やこもの上

【石手寺】
しくるゝや弘法死して一千年
白きもの又常盤なりふじの雪
赤煉瓦雪にならびし日比谷哉
親牛の子牛をねぶる霜夜哉
しぐるゝやともしにはねる屋根の漏
灯の青うすいて奧あり藪の雪
爪琴の下手を上手にしぐれけり
猪の 牙ふりたてる 吹雪哉
   岩ふみはづす
[#「牙ふりたてる岩ふみはづす」は、「猪の」と「吹雪哉」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
むつかしき姿も見えず雪の松
くれ竹の雪ひつかつき伏しにけり
内川や外川かけて夕しぐれ
興居嶋へ魚舟いそぐ吹雪哉
瀧壺の渦にはねこむ霰哉
凩にはひつくばるや土龜山
引拔た手に霜殘る大根哉
角《カク》池の四隅に殘る氷かな
寒月に悲しすぎたり兩
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