大師
子をかばふ鶴たちまどふ吹雪哉
浪ぎははさらに横ふくふゞき哉
初雪の瓦屋よりも藁屋哉
ふらばふれ雪に鈴鹿の關こえん
吹雪來んとして鐘冴ゆる嵐哉
關守の雪に火を燒く鈴鹿哉
かるさうに提げゆく鍋の霰哉
曙や都うもれて雪の底
熊笹の緑にのこる枯の哉

廿五年 終りの冬 生物

さゝ啼や小藪の隅にさす日影
馬糞のぬくもりにさく冬牡丹
※[#「※」は「さんずい+氣」、第4水準2−79−6、166−4]車道の一すぢ長し冬木立
さゝ啼や茂草の奧の松蓮寺
さむらいは腹さへきると河豚汁
煤拂のそばまで來たり鷦鷯
蝉のから碎けたあとや歸り花
冬の梅裏手の方を咲きにけり
   側イ
馬糞の中から出たり鷦鷯
[#「側イ」は「中」の右側に注記するような形で]
はげそめてやゝ寒げ也冬紅葉

【千嶋艦覆沒】
ものゝふの河豚にくはるゝ悲しさよ
麥蒔やたばねあげたる桑の枝
ちる紅葉ちらぬ紅葉はまだ青し
木の葉やく寺のうしろや普請小屋

【議會】
麥蒔た顏つきもせす二百人
石原に根強き冬の野菊哉
冬枯の草の家つゝく烏哉
薄とも蘆ともつかず枯れにけり
凩に尻をむけけり離れ鴛
小石にも魚にもならず海鼠哉
鮭さげて女のはしる師走哉
燒芋をくひ/\千鳥きく夜哉
千鳥啼く揚荷のあとの月夜哉
千鳥なく三保の松原風白し
海原に星のふる夜やむら千鳥
いそがしく鳴門を渡る千鳥哉
一村は皆船頭や磯千鳥
帆柱や二つにわれてむら千鳥 曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥
[#「曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥」は「帆柱や二つにわれてむら千鳥」の下にポイントを下げて2行で]
安房へ行き相模へ歸り小夜千鳥
磯濱や犬追ひ立てるむら千鳥
文覺をとりまいて鳴く千鳥哉
こさふくや沖は鯨の汐曇り
生殘る蛙あはれや枯蓮
凩にしつかりふさぐ蠣の蓋
旅籠屋や山見る窓の釣干菜
冬椿猪首に咲くぞ面白き
冬枯やいよ/\松の高うなる
冬枯に枯葉も見えぬ小笹哉
天地の氣かすかに通ふ寒の梅
おろ/\と一夜に痩せる暖鳥
ぬく/\と日向かゝえて※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、169−2]つむる 春季カ
明の月白ふの鷹のふみ崩す
冬枯のうしろに 高し  不二の山
        立つや
[#「高し立つや」は、「冬枯のうしろに」と「不二の山」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
冬枯の野に學校のふらふ哉

【松枝町】
四五枚の木の葉掃き出す廓哉
東野の紅葉ちりこむ藁火哉

【松山堀ノ内】
梟や聞耳立つる三千騎
鰒釣や沖はあやしき雪模樣
鷺谷に一本淋し枯尾花

【松山】
寒梅や的場あたりは田舍めく
枯れてから何千年ぞ扶桑木
吹き入れし石燈籠の落葉哉
逃げる氣もつかでとらるゝ海鼠哉
ほろ/\と朝霜もゆる落葉哉
いさり火の消えて音ありむら千鳥

【少年不及大年】
年九十河豚を知らずと申けり
引きあげて一村くもる鯨哉

【祝】
とし/\に根も枯れはてず寒の菊
わろひれす鷹のすわりし嵐哉
繪のやうな紅葉ちる也霜の上
白鷺の泥にふみこむもみち哉
もみち葉のちる時悲し鹿の聲
谷窪に落ち重なれるもみち哉
居風呂に紅葉はねこむ筧哉
はきよせた箒に殘るもみち哉
二三枚もみち汲み出す釣瓶哉
一つかみづゝ爐にくべるもみち哉
舟流すあとに押しよるもみち哉
石壇や一つ/\に散もみち

【日光】
神橋は人も通らす散紅葉
藁屋根にくさりついたる※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、171−8]哉
豆腐屋の豆腐の水にもみち哉
衣洗ふ脛にひつゝくもみち哉
裏表きらり/\とちる紅葉
梟や杉見あぐれば十日月



底本:「子規全集 第一巻 俳句 一」講談社
   1975(昭和50)年12月18日第1刷発行
底本の親本:自筆本「寒山落木」国立国会図書館蔵
※【】の見出しは底本では、ポイントを下げてセンター合わせしてあります。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。
入力:田中敬三
校正:小林繁雄
2001年2月9日公開
青空文庫作成ファイル:
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