別れ哉
茗荷よりかしこさうなり茗荷の子
藺の花の葉末にさかぬ風情哉
栗の花筧の水の細りけり
風蘭や岩をつかんでのんだ松
蓮の露ころかる度にふとりけり

【画賛】
討死の甲に匂ふあやめかな

【墨画賛】
此頃は薄墨になりぬ百日白
青天に咲きひろげゝり百日紅
白砂に熊手の波やちり松葉
花一つ/\風持つ牡丹哉
萍や出どこも知らず果もなし
藻の花や小川に沈む鍋のつる
卯の花や月夜となればこぼれ立つ
山百合や水迸る龍の口
夕顏 や闇吹き入れる 三日の月
   にまぶれて白し
[#「や闇吹き入れるにまぶれて白し」は、「夕顏」と「三日の月」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
卯の花に不二ゆりこぼす峠哉

【三阪】
旅人の歌上りゆく若葉哉
宵月や牛くひ殘す花茨
葉櫻の上野は闇となりにけり
葉柳の五本はあまる庵哉
夕顏は画にかいてさへあはれなり
夕顏や膝行車を立てさせて

【戀】
卯の花の宿とばかりもことづてん

【戀】
うつむいた恨みはやさし百合の花
窓かけや朧に匂ふ花いばら

【立花口】
絶間より人馬の通ふ若葉哉
萍の杭に一日のいのちかな
生きてゐるやうに動くや蓮の露
紫陽花に淺黄の闇は見えにけり
夕かほのやみもの凄き裸かな
白過ぎてあはれ少し蓮の花
白水の押し出す背戸や杜若
いわけなう日うらの白き胡瓜哉
凌霄や煉瓦造りの共うつり
浮草をうねりよせたるさ波哉
開いても開いてもちるけしの花
重たさを首で垂れけりゆりの花
傘はいる若葉の底の家居哉
[#改頁]

廿五年 秋 時候 人事
    すくむや
鷄の塒に小さし秋のくれ
[#「すくむや」は「小さし」の右側に注記するような形で]
燈籠としらずに來たり灯取虫
ぬすんたる瓜や乞食の玉まつり
箒星障子にひかる夜寒哉
秋たつや鶉の聲の一二寸
何げなく引けと鳴子のすさましき
旅人を追かけてひく鳴子哉
稻妻にひとゆりゆれる鳴子かな
烏帽子着て送り火たくや白拍子
引けば引くものよ一日鳴子引
思ひ出し/\ひく鳴子哉
ひとりゆれひとり驚く鳴子かな
どこやらに稻妻はしる燈籠哉
稻妻に燈籠の火のあばきかな
[#「どこやらに」と「稻妻に」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
家根の上にどこの哀れぞ揚燈籠
     よそイ  やイ
[#「よそイ」は「どこ」の左側に、「やイ」は「ぞ」の左側に注記するような形で]
籔陰を誰がさげて行く燈籠
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