《いほ》を並へん冬の山里 (西行)
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 西行の心はこの歌に現れ居候。「心なき身にも哀れは知られけり」などいふ露骨的の歌が世にもてはやされて此歌などは却て知る人少きも口惜く候。庵を並べんといふが如き斬新にして趣味ある趣向は西行ならでは得言はざるべく特に「冬の」と置きたるも亦尋常歌よみの手段にあらずと存候。後年芭蕉が新に俳諧を興せしも寂は「庵を並べん」などより悟入し季の結び方は「冬の山里」などより悟入したるに非ざるかと被思候。
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閨《ねや》の上にかたえさしおほひ外面なる葉廣柏に霰ふるなり (能因)
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 これも客觀的の歌に候。上三句複雜なる趣を現さんとて稍※[#二の字点、1−2−22]混雜に陷りたれど葉廣柏に霰のはぢく趣は極めて面白く候。
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岡の邊の里のあるしを尋ぬれは人は答へす山おろしの風 (慈圓)
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 趣味ありて句法もしつかりと致し居候。此種の歌の第四句を「答へで」などいふが如く下に連續する句法となさば何の面白味も無之候。
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さゝ波や比良山風の海吹けは
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