せしめんとする大檀那は天下一人も無く數年來鬱積沈滯せる者|頃日《けいじつ》漸く出口を得たる事とて前後錯雜序次倫無く大言疾呼我ながら狂せるかと存候程の次第に御座候。傍人より見なば定めて狂人の言とさげすまるゝ事と存候。猶此度新聞の餘白を借り傳へたるを機とし思ふ樣愚考も述べたく、それ丈にては愚意分りかね候に付愚作をも連ねて御評願ひ度存居候へども或は先輩諸氏の怒に觸れて差止めらるゝやうな事は無きかとそれのみ心配罷在候。心配、恐懼、喜悦、感慨、希望等に惱まされて從來の病體益※[#二の字点、1−2−22]神經の過敏を致し日來《ひごろ》睡眠に不足を生じ候次第愚とも狂とも御笑ひ可被下候。
從來の和歌を以て日本文學の基礎とし城壁と爲さんとするは弓矢|劍槍《けんさう》を以て戰はんとすると同じ事にて明治時代に行はるべき事にては無之候。今日軍艦を購《あがな》ひ大砲を購ひ巨額の金を外國に出すも畢竟日本國を固むるに外ならず、されば僅少の金額にて購ひ得べき外國の文學思想抔は續々輸入して日本文學の城壁を固めたく存候。生は和歌に就きても舊思想を破壞して新思想を注文するの考にて隨つて用語は雅語俗語漢語洋語必要次第用うる
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