嵐の山の櫻なりけり
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といふが有之候由さて/\驚き入つたる理窟的の歌にては候よ。嵐山の櫻のうつくしいと申すは無論客觀的の事なるにそれを此歌は理窟的に現したり、此歌の句法は全體理窟的の趣向の時に用うべき者にして、此趣向の如く客觀的にいはざるべからざる處に用ゐたるは大俗のしわざと相見え候。「べきは」と係《か》けて「なりけり」と結びたるが最理窟的殺風景の處に有之候。一生嵐山の櫻を見やうといふも變なくだらぬ趣向なり、此歌全く取所無之候。猶手當り次第可申上候也。
[#地から2字上げ]〔日本 明治31[#「31」は縦中横]・2・21[#「21」は縦中横]〕
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 五たび歌よみに與ふる書


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心あてに見し白雲は麓にて
       思はぬ空に晴るゝ不盡の嶺
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といふは春海《はるみ》のなりしやに覺え候。これは不盡《ふじ》の裾より見上げし時の即興なるべく生も實際に斯く感じたる事あれば面白き歌と一時は思ひしが今ま見れば拙き歌に有之候。第一、麓といふ語如何や、心あてに見し處は少くも半腹位の高さなるべきをそれを麓といふべ
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