けさまに議論可致候。熱心の點に於ては決して普通の歌よみどもには負け不申候。情激し筆走り候まゝ失禮の語も多かるべく御海容可被下候。拜具。[#地から2字上げ]〔日本 明治31[#「31」は縦中横]・2・18[#「18」は縦中横]〕
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 四たび歌よみに與ふる書


 拜啓。空論ばかりにては傍人に解し難く實例に就きて評せよとの御言葉御尤と存候。實例と申しても際限も無き事にていづれを取りて評すべきやらんと惑ひ候へども成るべく名高き者より試み可申候。御思ひあたりの歌ども御知らせ被下度候。さて人丸の歌にかありけん
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ものゝふの八十氏川《やそうぢがは》の網代木《あじろぎ》に
       いざよふ波のゆくへ知らずも
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といふが屡※[#二の字点、1−2−22]引きあひに出されるやうに存候。此歌萬葉時代に流行せる一氣|呵成《かせい》の調にて少しも野卑なる處は無く字句もしまり居り候へども全體の上より見れば上三句は贅物《ぜいぶつ》に屬し候。「足引の山鳥の尾の」といふ歌も前置の詞多けれどあれは前置の詞長きために夜の長き樣を感ぜられ候。これは又上三句全
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