より葎へ逃げ迷ふさまも興あり。道にて、
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撫子や人には見えぬ笠のうら
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御嵩《みたけ》を行き越えて松繩手に出づれば数日の旅の労れ発して歩行もものうげに覚ゆ。肩の荷を卸して枕とししばし木の下にやすらひて松をあるじと頼めば心地たゞうと/\となりて行人征馬の響もかすかに聞ゆる頃一しきりの夕立松をもれて顔を打つにあへなく夢を驚かされて荒物担ぎながら一散にかけ去りける。浮世の旅路是非もなきことなり。
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草枕むすぶまもなきうたゝねのゆめおどろかす野路の夕立
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此夜伏見に足をとゞむ。
朝まだほの暗き頃より舟場に至りて下り舟を待つ。つどひ来る諸国の旅人七八人あり。
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すげ笠の生国名のれほとゝきす
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小舟をしたてゝこゝを出づ。両岸広く開きて河原の上に遊ぶ子供の親を慕ふて船頭を呼びかくるさまなど画の如し。川上には高山巍々として雲を出没すれども川下を見渡せば藍より青き流れ一すぢ白沙に映じて渚の草木涼しげに生ひ茂りけり。如何に見るともこれこそ数日前に別れたる岐蘇川の
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