sしょほうせん》を書いて、部屋へ帰って寝るようにいった。二人は辞し去った。が、部屋へではなかった。すぐそこから弁護士へ廻って、例によって互いを相続人にした遺書を書いて手交しあっている。財産もなにもないマアガレット・エリザベス・ロフティの相続人になったところでしょうのないようなものだが、この男は、「形式は形式として整えておく」ことが大好きだったとみえる。それに、たとえ服一枚靴一足にしろ、死んでゆくと決定した女――もっとも女自身は知らないが、人間は多くの場合自分の死期を知らないものだから、これは無理もない――その女の身についているものは、なんによらず一切|合切《がっさい》もらうことにしておいて、いっこう差閊《さしつか》えない。どうせ死んでしまえば用のない品物だから、この自分が「相続」して金に換えるんでもなければ無駄になると考えたのだろう。実際どうも細かい男だった。
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 ベイツ医師の所から弁護士へまわったその日である。午後七時半ごろだった。ロイド夫人が入浴したいと言うので、その仕度《したく》をして、おかみのブラッチ夫人が階下から呼ばわった。
「ロイドの奥さん、お湯が立ちましたよ。」
 はあいと答えて、すぐ階上のバス・ルウムへはいる気配がした。ロイドとマアガレットと、二人一緒にはいろうと言うのだった。まずマアガレット[#「マアガレット」は底本では「マアガレッド」と誤植]が、着ていたガウンを脱いで、含羞《はにか》みながらまだ処女らしいところの残っている若々しい身体を浴槽へ沈めた。浴槽の花嫁だ。ロイドはそれに見惚《みほ》れていて、着物を脱ごうとしなかった。マアガレットが促《うなが》すと、彼はそのままシャツの腕まくりをして、浴槽へ近づいて来た。そして、静かにマアガレットの顔へ手をかけたので、彼女は、また接吻でもするのだろうと思って、にっこりして男の方へ顔を向けた。そこをロイドは、いきなり頭を掴《つか》んで、やにわに股の間へ捻《ね》じ込んでしまった。そしてしばらく満身の力でおさえつけていた。階下にいたブラッチ夫人は、頭の上の浴室で、踊るような跫《あし》音がするのを聞いた。ちょっと静かになった。すると一声笑うような声がして、湯を撥《は》ね返す音がした。なにを風呂場で戯《ふざ》けているのだろう。若い人はしようがないと思っていると、やがて溜息《ためいき》のような長い 
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