いるじゃあないか」
「そこに? 何処《どこ》に?」
「そこにさ。ははは、見廻してらあ。正直だね、お前さん」
「親方さ。どこにいるんだね」
「だからそこにいるって言ってるじゃないか。お前だよ、お前があたしの親方なんだ」
「なんとか言ってらあ。うふふ、おかみさんは人が悪くてね、おれちなんか敵《かな》わねえね」
「誰がこんなに人が悪くしたのさ。おすわりよ。一ぱい呑ませて上げよう。ね、お据りったらお据り」
「いやだなあ」
「いいからさ。じれったいねえ。子供なら子供らしく貰って飲んだらいいじゃないか」
「おかみさんにかかっちゃあ子供――」
「子供じゃないか。どこへ行って来たの?」
「え? ちょっとざあ[#「ざあ」に傍点]っと一風呂浴びて来ました。親方は?」
「お湯屋のおとめちゃんだね、もす[#「もす」に傍点]さん。浮気をするときかないよ。沢庵やろうか」
「うん。冷酒《ひや》には沢庵が一番いいね」
「生意気言ってらあ――けどね、おとめちゃんには親方が眼をつけてるんだろう? 横から手を出すと目にあうよ、もす[#「もす」に傍点]さん」
「そんなことありませんよ。親方はおかみさんに惚れ切ってますからね。
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