舞馬
牧逸馬
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)植峰《うえみね》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)でっぷり[#「でっぷり」に傍点]した
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植峰《うえみね》――植木屋の峰吉《みねきち》というよりも、消防の副小頭《ふくこがしら》として知られた、浅黒いでっぷり[#「でっぷり」に傍点]した五十男だった。雨のことをおしめりとしか言わず、鼻のわきの黒子《ほくろ》に一本長い毛が生えていて、その毛を浹々《しょうしょう》と洗湯《せんとう》の湯に浮かべて、出入りの誰かれと呵々大笑する。そうすると、春ならば笑い声は窓を抜けて低く曇った空に吸われるであろうし、秋ならば、横の露路に咲いたコスモスのおそ咲きに絡まる。
「入湯の際《きわ》だがね、このコスモスてえ花は――」と峰吉は矢鱈《やたら》に人をつかまえて講釈をするのだ。コスモス――何という寂然たる病的な存在だろう。こいつを土に倒しておくと、茎から白い根が生える。まるで都会の恋人の神経みたいな。と、もし峰吉に表現の能力があったら言ったかも知れない。そして、湯に浮んだ一筋
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