首ったけ――てんだ。ようよう!」
「何がようよう[#「ようよう」に傍点]だい。けど、お前さんほんとにそう思う?」
「そう思うって何を」
「いま言ったことさ。うちの人があたしに、って」
「うん。そりゃあそうだとも! お八重が、お八重がって何処へ行っても言ってますよ。御馳走さま――これ何て酒だね。腹へしみるね」
「ほんとにそうかしら――」
「うん。いやに腹わたへしみらあ」
「そんなこっちゃないよ」
「え?」
「あたし何だか親方に済まないよねえ」
「おかみさん、おら、一まわりそこらを歩いてくるよ」
「お待ちよ。お待ちったらもす[#「もす」に傍点]さん、お前この頃、へんな噂を聞くだろう? お前とあたしのことさ。おなかの子が何《ど》うとかこうとかって、莫迦莫迦しい――お前みたいな子供の子なんか、考えてもいやなこった。親方んだよ。いいかい、覚えてておくれよ、誰が何を言ったって親方んだからね――」
お八重はすこし芝居がかって、ここでがっぱ[#「がっぱ」に傍点]とばかり泣き伏した。
「知ってるよ。泣かねえでくれよおかみさん。親方が帰ってくるとおれが困るからよう――泣き上戸《じょうご》だなあ」
「泣き
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