対する擽《くすぐ》ったい悦《よろこ》びに混って、茂助の顔を見るたびに覚える真黒な動物的な親密――この小僧がお八重をおれと共有しているかも知れねえのだからなあ――からくる一種へんな感心の気もちを味わわなければならなかった。峰吉がとしよりだったから、こんなところを低徊《ていかい》していたのかも知れないし、一方から言えば年寄りなればこそ、そうして副小頭なればこそ、ここを一つぐっ[#「ぐっ」に傍点]と押さえることが出来たのかも知れない。それは、これが植峰の峰吉にとってこの上ない悲壮な、英雄的な感激だったのでもわかろう。火のないところにけむりは立たぬ。町内で知らぬは亭主ばかりなり――なあに、おりゃあ知ってる。知ってて眼をねむってるんだ。まあ、待て待て、と洗湯の湯の表面に黒子《ほくろ》の毛を浮かべて、そもそも何度峰吉が自分じしんに言いきかせたことか。思えば、苦しいこころで笑っている植峰の親方ではあった。
 そんなこととは知らないから、茂助は依然として「やれこうのえんやらや」の茂助だった。ときどき三里ほどの夜の山道を歩いて、遊廓のある町へ行ったり、その町から帰って来たりする途中も、茂助はずうっ[#「
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