と、正月の餅のようだと感じた。三人とも何にも言わずに解りあっていたのだ。もすの子だなんて、そんな馬鹿げたことがあるもんか、と。
 が、このあられもない風評にそそのかされでもしたようにお八重は不必要にも一つのあそびを思いついた。じっさいそれは遊びとしかいいようのない計画で、いや、計画とまでのはっきりした形をさえ取らないさきに、お八重はもうその遊びをはじめていた。というのは、お八重は、自分が峰吉の眼をかすめて茂助と親しくしているようなふうをせっせ[#「せっせ」に傍点]と見せ出したのである。もっともこれは、こうすることによって、うちの人――お八重は二十も年の違う峰吉をわざとらしくうちの人と言っていた――の気を引いてみようとした、つまり矢張り単なる遊びに過ぎなかったものか、またはもっともっと峰吉に大事にされたかったのか、つまりより以上に真剣な心もちを包んでいたのか、あるいは、万が一ほんとにお八重が茂助という少年を知っていたのか、つまりその大それた交渉をおおっぴらに現わしはじめたのか、そのへんのことは神ならぬ身の峰吉にはさっぱり判断がつかなかったが、そこは老年に近い峰吉としては、お八重の腹の子に
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