いて」
「これ、お八重、何をいう?」
「おとっつぁんが殺したんだろう?」
「誰をよ?」
「もす[#「もす」に傍点]さんをさ。火をつけたのもおとっつぁんだろう?」
「しょうのねえ女《やつ》だ」
「そら! もうそんな蒼い顔をしてる! ねえ、おとっつぁんが殺したんだ。ほかの人に聞けば、もすさんはあの晩纏いを持ってお湯屋の屋根へ上ってたってけど、梯子がまといを持って屋根へ上るわけはないじゃないか」
「やかましいっ! 纏持ちの源が手に怪我して――」
「うそをお言いでないよ、うそを。あたしはね、源さんにききましたよ。手に怪我をしたのは火事の最中で、最初《はな》行った時に、お前さんが源さんからまといを取って、もす[#「もす」に傍点]さんに渡して、もす[#「もす」に傍点]や、今夜おまえこれを持って俺と一しょに屋根へ来いって――」
「そうよ。そうすると、屋根へ火が抜けたんだ。なあ、見るてえと下におとめちゃんが燃えてる。いいか、よせってのに、もす[#「もす」に傍点]の野郎が覗きこんでて動かねえから、もす[#「もす」に傍点]、さあ来い、下りべえと俺が言った拍子に、あの水だ、滑りやがる――」
「へん! そこを
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