うじ》へねりこむことになっている。
いそがないと間にあわない。植峰では、副小頭の峰吉が、お八重を急がせて羽職袴《はおりはかま》をつけていた。縞の銘仙《めいせん》に、紋の直径が二寸もある紋付を着て、下にはあたらしいめりやすが見える。こうして見るとうち[#「うち」に傍点]の人も立派な男ぶりだと思いながら、お八重はうしろから袴の腰板を当てている。そのくせ、弟のように思っていたもす[#「もす」に傍点]さんの葬式だもの、これが泣かずにおられようかといって、眼を真赤にしているのだ。泣きながら、なぜ自分は茂助の子なんか生むようなことになったんだろう。しかし、このおじいさんが茂助のように力づよくあたしを可変がってくれたら――そうだよ、きっとこれからはもっともっと眼をかけてくれるよ。そうしたら、これはおとっつぁんの子なの、えええ、おとっつぁんの子ですともさ――峰吉は火事以来黙ったまんまだ。
「ねえ、おとっつぁん」お八重がいう。「もす[#「もす」に傍点]さんの死んだ時どうだったのさ」
これは何度となくお八重が発した質問である。「なに、何《ど》うだったといったところで」峰吉ははじめて口をひらいた。「おり
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