の。もう点くわ」
「そうか――もす[#「もす」に傍点]!」
「へ。今つきます。もうすぐ」
仕方なしにしばらく電燈をがちゃがちゃ[#「がちゃがちゃ」に傍点]やったのち、茂助は頃あいを見てスウィッチを捻った。暗いあいだに、お八重がそこらの酒や小皿を片づけた。これでよしと見て、
「つきました――お帰り――」
茂助が障子をあけると、庭には松の枝に月がさすきりで、誰もいなかった。
3
その晩、それから間もなくだった。娘のいる近所の湯屋が火事になって、二、三軒にひろがって朝まで燃えつづけた。
「はい、点きました――お帰り――」
さっき、こういって障子をあけて見ても、いままで声のしていた親方がどこにもいないので、茂助もお八重もいささか怖いような気がして、それからは障子を開け放して、二人とも縁側に出て何ということもなく話しこんでいた。
すると、夜中に近くなって、また峰吉が帰ってきたが、すぐ寝るというので、めいめいその仕度にかかった。すりばん[#「すりばん」に傍点]が鳴って、湯屋から植峰へかけての空が真赤になったのはこの時である。峰吉は副小頭、茂助は梯子の係りとして、装
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