《しかばね》ができあがった。その、完全に感激してぐったりしてる狂信家を、そっと夫人の寝室へ運び上げた。別室に待っていた指の利《き》く専門家のスパイが呼び込まれてさっそくメリコフの身体検査に着手する。メリコフは、重要そうにふくらんだ折り鞄を持って来ていて食事の間も足|許《もと》に引き付けていたが、どうせ古新聞紙でも詰め込んだもので、そいつへ注意を外らそうという看板にきまっている。スパイたちはそんな物へは眼もくれなかった。伯爵夫人の指揮ですぐ腹部の釦鈕《ボタン》を開く。案の定《じょう》、膚に直接|厳丈《がんじょう》な革帯《ベルト》を締めていた。ポケットがある。特製の錠がおりていたが、指仕事専門のスパイは、錠を壊さずにたくみに開けて、中から書類を取り出した。その書類を地下室へ持っていって写真を撮《と》ったのち、すぐメリコフのポケットへ返して錠をおろし、元どおり洋服の釦鈕《ボタン》を掛けておいた。メリコフはこんこんと眠っている。
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このメリコフの腹帯《ベルト》から取り出されて写真に写された書類がなんであったか、一説には、センセイショナルな内容を有する露仏《ろふつ》秘密条
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