マタ・アリの専門とするところ。わけはない。数日のうちに成功して、聞き出せるだけ聞き出してしまう。が、マドリッドに光っている特務機関の眼が、ドイツばかりではない。イギリスのスパイが、ランドルフ大尉の様子に秘密の流出する不安を感じて、急ぎ上司へ通告して指揮を仰ぐ。大尉はにわかにマドリッドを退去してパリーへ北上すべしという厳命を受け取った。するとマタ・アリも、ランドルフと一緒にパリーへ行かなければならないことになったが、第二号に捕まってあんな目に遭《あ》ったばかりだから、パリーはマタ・アリの鬼門《きもん》である。ああいう経験は一度でたくさんだ。ここで、彼女は初めて駄々をこねてみたけれど、もちろんいやだと言って許されることではない。保証と脅迫に押し出されるようにしぶしぶマドリッドをあとにパリーへ向う。脅迫は密偵部の常套《じょうとう》手段、命令に服従しなければ、同志が手をまわしてその地の官憲へ売り込む。四面|楚歌《そか》のドイツのスパイだから、たちまち闇黒《やみ》の中で処分されてしまうという段取りで、一度密偵団の上長《じょうちょう》に白眼《にら》まれたが最後、どこにいても危険は同じことだ。それは
前へ
次へ
全68ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング