、近代の戦場の模型が作ってあるというのだ。実際の戦線を一部切り離してきたように、塹壕《ざんごう》、鉄条網、砲丸の穿《うが》った大地穴、機関銃|隠蔽《いんぺい》地物、その他、小丘、立樹、河沼、小独立家屋など、実物どおりにそっくりできあがっている。おまけに、塀の中からは、ひっきりなしに、強力なガソリン発動機《エンジン》の爆音が聞えてくる。近所の噂《うわさ》によると、蛾虫《さなぎ》のような奇妙な形をした新型|牽引車《けんいんしゃ》の試験をしているらしいという。なんでも、前線へ給水、補弾等の目的を達する装甲《そうこう》輸送車であると同時に、あらゆる地形、障害物を無視し、蹂躪《じゅうりん》して進む戦闘車の役割をもつとめるとのこと。英軍部内の関係者がタンクという写実的な名称で呼んでいる、同国陸軍が新たに発明した武器だというのだ。そこで、グランド・ホテルに隣りあわせて泊っているスタンレイ・ランドルフ大尉に探りを入れてみる。砲兵士官だから、なにかこの怪車タンクについて知っているに相違ない。こういう命令がマタ・アリに与えられた。相手は、いちじ戦争から帰ってぶらぶらしている青年将校である。こんなのこそは、
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